起伏なく過ぎていく日常、自分を責め立てる不安や後悔。そんな悩みを、私達は獣だった頃に考えていたでしょうか。
太古の昔から私達の心の底で燃え続けている渇望。それは理屈で語ることなどもはや無用な、ただただ、本能に従い"ほんとうに生きる"ことだけを求めています。
全ての縛りを脱ぎ捨てて駆け出す、破天荒の"生への焦燥"を感じて頂ければと思います。
吹雪く雪山。暗闇には山の神・羆の吠え声が響き、それに呼ばれたように雪が滑り、やがて雪崩になる。過酷で人の手が及ばない、激しくも美しい神の領域。
そんな地に、足を踏み入れる者がいる。
ある者は、自分の価値を確かめるため。
ある者は、自分を襲う不安に打ち克つため。
ある者は、自分にとって大切な何かを求めて。
誰しもが、百人百様の悩みを抱え、山に答えを求めその頂を目指す。しかし山は只そこにあるだけで、答えなど最初から持ってはいない。
それに気付かない人々は、教えを請うように一歩また一歩と登ってゆく。例えたどり着いても何も与えてはくれない頂を目指して。
そこへ、のうのうと死んだように生きているものが自分の領域に入ってきたことに憤怒した神威が、羆の姿を借りて現れ、人は闘う。
全身全霊をかけてその巨躯を揺らしぶつかってくる羆に対し、自分の持てる力全てを絞り切るように。
気付けば雪は止み夜は明けた。 山に答えを求めていた人々の足は止まる。
闘い終わって人々は、自分の掌がじんわりと汗をかいていることに気付いた。
羆の毛皮が、その掌よりも暖かい、命の温もりを持っていることに気付いた。
自分の心臓の鼓動が、いつもより大きく聴こえることに気付いた。
自分の悩みなど、ほんとうに生きることに比べたらちっぽけだと気付いた。
ほんとうに生きることを思い出した人々に神威は心を許し、神と人は一つになった。
体中の血管の血が沸き、人々の体を朝日に向かって突き動かす。本能が求めるのは、"生きる"こと、だけ。
ふと、人々は、大きく息を吸って天に向かって叫んだ。
『生きることは、闘いだ』
迷いを捨てがむしゃらに、命の炎を燃やし、"今"というこの瞬間を駆け抜ける。
人々は生きていく。また明日も目を開き、あの朝日を見るために。